1.まずはかわいがってきにいってもらいましょう
「――あんたらは、一緒に旅してどれくらいになるんだ?」傍らに眠るリナを眺めていると、ゼルガディスがそう聞いてきた。
リナはよく眠っている。当然だ。ついさっき髪が銀色になるほど物凄い術を使って魔王を倒したばかりなのだから。
こうして平和に眠るリナを眺めていると、さっきまでの死闘が嘘のように思えてくるのが不思議だった。
「どれくらいって……そうだな、お前が宿に訪ねてきた時の前の日だから……ちょうど一週間前くらいか?」
「……は?」
ゼルガディスが妙に間の抜けた声を出した。
「一週間って……何かの間違いじゃないのか?」
「何だ。いくらオレだって日にちぐらい数えられるぞ」
「そうじゃない。そんな短い付き合いなのか?俺はまたてっきり長い付き合いなのかと……」
何だか妙にまじまじとオレとリナを見比べている。
まあ、分からないこともない。オレだって口にしてみて驚いた。
実際ほんの一週間の間に色々なことがありすぎた。最初盗賊に囲まれてるリナが見えたとき、全然怯えていない様子からして 大したお嬢ちゃんだとは思ったが、あれよあれよという間に事件を巻き込んで引っ張って……最後には魔王まで倒してしまった。 普通の人間の一生分の事件をやっちまったんじゃないだろうか。
本当に、大した奴だと思う。
「なんでもいいけど、立てるようになったら早くちゃんとした街道に出て宿を探そう。こんなところにリナを寝かせておいたんじゃ風邪をひく」
そう言うと、ゼルガディスがくすりと笑った。
「あんた、短い付き合いなのに随分可愛がってるんだな」
「……だってなあ、魔力だとか気力は凄いのがよく分かったけど、体はまだまだこんなに小さいだろ。女の子は体を冷やしたらいけないっていうし、 風邪とかひいたらこじらせそうじゃないか」
そう言うと、ゼルガディスが何故か吹き出した。
あんなに勢いよく吹き出して大丈夫なんだろうか。こいつだって大怪我したばっかりなのに。
「な……なるほど。確かに『保護者』なんだな、あんた……」
くっくっと笑い声を立てながら、ゼルガディスも手足を広げて横になる。
「なら、さっさと体力をつけるために俺も寝かせてもらうとするか。すまんな、俺に回復魔法が使えたら早かったんだが」
「気にするなって。いいから寝ろよ」
「悪いな。朝になったらアトラス・シティに向かって出発しよう」
そういうと、すぐに寝息が聞こえてきた。やっぱりこいつも疲れきってたんだろう。
静かになって、オレはまたリナを眺めながらぼんやりと考える。
そういえば、アトラス・シティまでついてってやる、ってのが最初の約束だったな。
とうことはそこについたらリナとの旅は終わりになってしまうんだろうか。
リナがそこでさよならと言えば、オレもそう言うしかない。約束は約束だからだ。何だか危なっかしいから一緒についていってやりたいと 思っても、こんどリナが嫌だと思えば実力で撥ね退けられるだろう。
それぐらいやる奴だというのはもうよく分かっている。
マントを引っ張ってできるだけ体を覆ってやりながら、何だか妙に、それで終わりになってしまうのは嫌だと思った。
そして、今。アトラス・シティを前にして、リナはこう高らかに宣言した。
「光の剣を譲ってくれる気になるまで、ずっとあなたの追っかけをやらせてもらいますからね。
さ、行きましょ」
そう言って、街に向かって颯爽と歩き出す少女に、思わず笑みが零れ落ちる。
よかった。どうやらオレは気に入ってもらえたらしい。