3.かわったものにきょうみをもちます

 次に行く町は結構賑やかで、美味しいものもたくさん。ちゃんとした魔道士協会もあるらしいから少しのんびりして魔法の研究もして―― 確かリナはそんな話をしてたんだと思う。
 その流れの中、リナはいかにもいいことを思い出した、というように目を輝かせてオレを見上げてきた。

「研究するから光の剣、貸して♪」
「持ち逃げするから断わる」

 そう即答してやると、リナの瞳が僅かにそっぽを向いた……やっぱり、まだ諦めてなかったか。
 けど、ちょっと気まずそうな表情になったのはほんの一瞬で、全然めげずに今度は泣き真似なんぞしつつこんなことを言ってくる。

「ひどいっ、そんなこと言うなんてっ!あなたあたしのことそんなに信用してないのっ?」
「いや、信用はしてる。けどこれと飯を前にしたときのお前さんは別だ」
「何よ。いいじゃないちょっと貸すくらい。勿論貸すんじゃなくてくれるって言うんならそれに越したことはないけど」
「お前なあ……ちょっとぐらい遠慮しろよ」

 そう言うと、リナはむ、と唇を尖らせて反論してきた。

「なに言ってんの。最初は五百五十で売ってくれって公正な取引を申し込んだのにあなたが嫌がるから、今は不承不承方針を曲げて 一時だけ貸して、ってお願いしてるんじゃない。物凄く譲歩してるわよ」
「……よく分からんが、渡したら最後返ってこないのは一緒のような気がする……」
「……ガウリイのくせにスルドいわね」
「図星かよ……ともかく、だめなものはだめ」

 けちー、と声を上げてくるリナを見ながらオレは溜息を吐いた。

「だいたいなぁ……なんでこんなもんを欲しがるんだ、お前さん」
「だって、不思議じゃない?」

 売り飛ばして金にする、という返事を半ば予想してたんだが、リナの返事は全く違うものだった。
 いつもの高い声が僅かに低くなり、目が細められる。その表情はいつもと違う雰囲気だが、見慣れたものでもあった。 これは、呪文を唱えている時と同じものだ。

「思うだけで、魔族すら斬る刃を生み出す剣よ?魔道士が呪文を唱えて、何か他のものの力を借りて、そうしてやっと形を 作ることができるのに、この剣はそれを一瞬でやっちゃうのよ。どういう構造になっててどうやればこんなことができるのか ――いくら考えても不思議だわ。あたしはそれが知りたいのよ」

 そう言ったリナの目が、じっとオレを見上げている。
 リナが光の剣をくれなんて言ってきても、なぜか憎めないのはきっとこの目のせいだ。これまで光の剣を欲しがった奴らとは 全く違って、純粋な好奇心で輝く目。この目にオレは弱いのかもしれない。

「ガウリイは不思議に思わないの?この剣」
「いや――別に。こういうもんなんだろ」
「もう。そんなんじゃ宝の持ち腐れもいいとこじゃない。それよりはあたしが貰って研究し尽くしてこの上なく 有効に使ってあげた方が絶対に良いと思うわよ。だから、頂戴?」
「だからだめ。これは絶対にやらないけど――」

 そう言いながら、手を伸ばす。

「本当に必要な時だけは貸してやるから、それで我慢しろ。な?」

 研究用とかはなしだぞと言いながらくしゃりと髪を撫でてやると、途端にリナは拗ねたような表情になって、髪が痛むから止めろ、とオレの手の下から抗議してきた。
 その声は、さっき剣のことを喋っていたときとは全然違って、いつもの高いものに戻っている。つくづく表情も声も豊かな奴だと思う。

「それより、オレはさっき言ってた名物の羊料理、っていうほうが気になるんだが」
「あ、大事なことを忘れてたわ。あのねあそこの町は羊そのものもいいんだけど、料理に使う香草がね――」

 途端、滑らかに動き始めたリナの舌にオレは苦笑する。
 リナにとっては、光の剣も名物料理も同じように興味のあるものでしかないんだろう。だからこうやって次なる 興味の種が出てくれば、すぐに話題はそちらへ移り、同じだけの熱心さをもって語り始める。

 目を輝かせて色々なことを語るリナの声を聞いて、相槌を打つ。こうやって二人で喋っているうちに、 気付けば目指す町に着いているだろう。そこに着くまでも、着いてからも、きっとリナから話題は尽きないに違いない。

 ともかく、リナと歩くのは飽きない。





作中で結構たびたび貸し出されてますよね、光の剣。
リナが持ったりゼルが持ったり。ズーマに無断で使われたこともありましたっけ。