ゆるやかな約束

「んー……疲れたわ」
 晩御飯を食べてお風呂に入って、柔らかいベッドに倒れ込んだあたしにガウリイの声がかけられた。
「そりゃ疲れるだろ。あれだけ暴れまわったら……」
「何言ってんの。ああいう失礼なことを言う連中はあれぐらいしたって懲りないのよ」

 がばっと身を起こして、隣に座ったガウリイの目を見据えてやると、苦笑が返ってきた。

 本日街道を抜けて宿のある町の直前まで来て、もしかしたら出るかな?などと期待してると、ばっちりそのタイミングで盗賊さんがやって来た。
 向こうから来たならばこの自称保護者に止められることもない。嬉々として呪文を唱えるあたしに、何を思い当たったのか盗賊その一が あたしの数々の二つ名を連呼し始めたのだ。
 で、まあちょっぴり頭にきたので、いつもよりちょっと多めに攻撃呪文をぶちかまして役人に突き出して、宿に入れた時にはもうかなり遅くなってしまったというわけである。

「『盗賊殺し(ロバーズ・キラー)』なんてのは……まあ事実無根じゃないところもなくもないからともかく、 『闇の帝王の生まれ変わり』だのその他もろもろ、こんな可憐な乙女に何の根拠があってそういうことを言うんだか」

 だからそういう失礼なことを言う奴にはもっと天罰レベルの制裁を与えてしかるべきなのよ、と力説するあたしに、ガウリイののんびりした声がかけられた。

「まーな、生まれ変わりなんて普通ないだろうし」

 ……ん?

「あるわよ、生まれ変わり」
「は?」

 あっさり言ったあたしに、ガウリイは間の抜けた声を上げた。

「だから、あるわよ生まれ変わり」
「えーっと……なんで分かるんだ?」

 なんだか首をかしげるガウリイに、あたしはそう思う理由を説明してあげた。

「7つに分かたれた魔王の欠片が人間の魂に封じられて、その生まれ変わりのサイクルを利用して浄化されていくようにされた、って伝説があるわけだけど…… あたしたちその実例を見てるじゃない……」
「……ああ、なるほどな」

 流石のガウリイもあの辺りのことは忘れないらしい。

 まあ、あれらの出来事に逢うまでは、あたしも転生だの何だのは話半分に聞いていたけれど、あの時それは事実なのだと見せ付けられた。
 今は素直に理解している。全てのものは混沌から生まれ混沌に還り、そしてまた生まれてくる。それは特別なことでもなんでもない、この世界の理だ。

「だからきっとあたしもガウリイも生まれ変わりはするんじゃない?まあ、人間は魔族だの神族だのとは違って、記憶やら何やらをもったまま生まれ変わるってことはまずないでしょうけどね。 完全に一からのスタートよ。
 けど、人間の人生はたかだか100年だけど、一度終わってもまた新しく次があるってことなのよね。そう思うと、それは何だかちょっと嬉しいわ」

 そう言ってみると、黙ったまま聞いていたガウリイが手を伸ばし、あたしを膝の上に抱えあげた。

「じゃあ、リナ。そうなったら次もまた会おうな」
「え?」
「だから、次があるならまた会おう」

 何だかあっさりと言ってくるガウリイに、あたしはちゃんと分かってるのかと問いかけてみる。

「もし会えたとしても、また一からスタートなんだから、あたしかどうかなんて分からないわよ?」
「そうだな。けど、リナならまたきっと賑やかにしてるだろ?なら会えたらまたほっとけなくて声をかけて、何だか色々始まっていくような気がするんだよな」
「……そう思う?」
「ああ、思う。だから、そうやって会ったら、また一緒に飯を食ってあちこち一緒に旅をしよう」

 のんびりとした言葉に、あたしは小さく吹き出した。

「次の世でも保護者するつもり?」
「そうなったらいいよなあ」
「会った時には既にガウリイ以上の相棒がいたりして」
「それはない」
「ま、それはそうかもね」

 何だか笑いが止まらなくて、あたしは目の前の厚い胸板におでこを擦り付けた。
 ガウリイは喉の奥で笑い声を立てながら、あたしを抱えたまま横になり、肩まで毛布を引き寄せる。

 くすくすという笑いが止まらないまま、あたしはいつの間にか眠りについていた。



 その日の夢はふわふわとして優しくて、なんだかとても楽しかった。





副題「終わりはしない」
スレイヤーズ世界には転生という現象が存在するので、こういう会話があってもいいかなと。