プロローグ

 闇の中に白刃が煌く。


 抜き身の剣を振り回しているのは、まだ少年と呼ぶ年頃を脱したばかりの青年だ。

 剣は振り回されるうち、木の根に食い込み、青年の動きを止める。
 荒い息をつきながら剣を引き抜こうともがく青年の背後に、ひとつの気配が立った。

「……何の用だ」
「いつまでそんなことをしているつもりですか」

 苛立った青年の声とは対照的に、全く動揺のない声が返される。

「無駄に剣を振り回せば強くなるというものではありませんよ。
 むしろ疲労を蓄積させるだけで無駄なこと。まして、貴方はまだ身体が成長を続けている時期ですから そんな無茶をしてもむざむざ身体を壊すだけで意味がありませんね。
 強くなりたいなどと言っていながら、そんな遠回りなことをするのは愚かなだけですよ」
「煩い、俺は――!」
「ゼルガディス」
 起伏のない呼びかけに、初めて青年はそちらを向いた。

 夜の闇の中でも妙に生々しく色彩を伝える赤い法衣。
 それが視界に映る度目を背けたくなる衝動と戦いながら、青年は呼びかけの続きを待った。

「――欲しいのなら与えてあげましょうか?力を――」
「俺は――」



そして、青年は明確な言葉を告げた。





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