「旅の目的はそれであるというが……あのときお前が我らの住む峰に来たのは、知識を得る為ではなく仲間を守る為ではなかったのか」
「それもあったが、元々俺の目的はこの体を元に戻すことにある。
 あの時は、あいつのそばにいると伝説級の事件がごろごろやって来たんでな。色々な情報を得られたのでついて行き、 最後まで付き合っていたっていうのが正しいところだ。それこそ、竜たちの峰(ドラゴンズ・ピーク)にまで行くことができたくらいだからな。
 ……最も、あのときは何の知識も得られなかったが……」

 含みを持たせたゼルガディスの言葉に、ミルガズィアは頷いた。

「――なるほど。しかし、それは雲を掴むような話ではないのか?」
「そうだ。だから少しでも手掛かりを求めて、虱潰しに探し回っている。合成獣(キメラ)の研究者だの通り一遍の技術だのはほぼ調べつくした。 もはや伝説の中や……それこそ異界黙示録(クレアバイブル)のような人智を越えた知識に望みを託すしかないとは思っているが、 万に一つの可能性にかけて、こうした怪しいところには足を運んでいる」
「なるほどな」
「手がかりであればなんでもいい。竜王(ドラゴンロード)と呼ばれるあんたに再び会えたため聞きたいんだが―― 人間と岩人形(ロック・ゴーレム)邪妖精(ブロウ・デーモン)合成獣(キメラ)を人間に戻す方法に 心当たりがあれば、どうか教えてもらえないだろうか」

 真剣なゼルガディスの言葉に、黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)の長老は静かに考え込んだ。
 そして、ぽつりぽつりと呟き始める。

「……実現可能か否かは別として、方法は2つ考えられるだろう。
 1つは、お前という存在を全て分解し、人間の要素のみを再構築することだ。
 ……一言で表せばそういうことだが、無論容易いことではない。
 存在そのものを分解するということは簡単な問題ではない。それは肉体と共に、それに伴う精神や魂も分解するということだ。仮に分解して、肉体を人間として再構築することができても 、一度分かたれてしまった精神や魂を元の存在のとおりに再構築することは不可能であろう。
 仮に、精神や魂をそのままに肉体のみ分解、再構築することができたとして、肉体は人間になっても精神には合成されたものがそのまま生きていることになるだろう。 

 ――いま1つは、時間を巻き戻すこと」

 黙って続きを待つゼルガディスに目を向けたまま、静かに言葉が続けられる。

「肉体の時間をお前が合成獣(キメラ)となった日まで巻き戻すことができたなら、人間になることはできるだろう……時間を巻き戻すという手段だけであれば、 かってエルフがそのための技術を開発したという話を聞いたことがある。
 しかし、それをするには大掛かりな仕掛けが必要であり、完成までに数百年を要した上、既に破壊されたと聞く。  合成獣(キメラ)となったことによってお前の寿命がどの程度になっているかは分からないが、おそらく普通の人間と そう変わらないのだろう。そうであれば、エルフの協力を得ることができ、この仕掛けを再度作ろうとしても お前が生きているうちに完成することはまずありえまい。
 また、2つの存在は同一の世界に同時に存在することはできない。仮に肉体の時間を巻き戻すことができても、 同時に精神の時間も巻き戻る。つまり、合成獣(キメラ)となる時点まで精神の時間も巻き戻ってしまうゆえに、今ここにいるお前の記憶を持ったまま、肉体のみを人間にすることはできない」

「……そうか」
「……私が今言ったことなど、おそらく既に検討が付いていただろうが、心当たりはないかと言われたため敢えて言った。
 ――その上で戯れに聞く。もしどちらの方法もが可能となった場合、お前はどちらを望むのだ?」
「……どういうことだ」
「精神に合成されたものを抱えても今のお前として歩み続けるか――それとも、これまでの時間を無くしても完全な元の姿として復活するか――どちらを望むのだ?」

 ミルガズィアの言葉を受けて、ゼルガディスは一度視線を落とした。

 考えたことがないわけではなかった。人間に戻る方法は、突き詰めればこの2つしか考えられない。
 そして、もしもこの2つの道が自分の前に開けたとき、自分はどちらを選ぶのか。
 どのような姿を望むのか。

 その答えは既に出ていた。

 だからゼルガディスはすぐに視線を上げ、問いかけの主を再び見やり、答えを返す。

「――俺は、再構築を望む」
「何故だ」

 視線を正面から受け止めて、表情を変えぬままミルガズィアは更に問いかける。

「時間を巻き戻すことは寿命からして不可能だからか」
「違う」

 ゆっくりと首を振り、その理由を言葉にして紡いでいく。

「時間が巻き戻れば、これまでの俺の記憶は失われるだろう――そうなれば、また俺は誤った選択をして、合成獣(キメラ)になるような結末を迎えるかもしれない。 もう二度とそんな過ちは犯すものか。
 ――それに、何よりも」

 ミルガズィアだけではない、その場の全員の視線を受け止めながら、ゼルガディスは宣言する。

合成獣(キメラ)である時間を含めて、俺は俺だ。
 これまで俺が出会ったもの――得たものも失ったものも――それを無くしたくない。そして――合成獣(キメラ)であった事実から逃げるつもりもない。
 だから、俺は再構築を望む」
「――そうか」

 全てを聞き終えた黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)の長老は、微かに笑みを浮かべていた。





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