「本当に助かりました。ありがとうございます――」
 先程より丁寧な礼を告げられる。美味くもない携帯食料を飲み下し、ゼルガディスは多分に呆れを含んだ溜息を吐き出した。

「……食料くらい持って入らなかったのか」
「だってまさか。こんなところにうっかり入っちゃって出られなくなるとは思わなくて」

 僅かながら食物を取って人心地ついたのか、娘は晴れ晴れとした顔で答えを返してくる。
 この状況では食料は貴重だが分けてやらざるを得ない。腹を減らした人間とは会話が成り立たないということは、以前の仲間から学習したことの一つである。

 あの後二人は苔色の物体と遭遇した場所から離れ、ゼルガディスが昨晩野営した場所に腰を落ち着けていた。

「おかげでお腹は空きますし疲れるし、今日はいきなりあんなのとかち合ってしまって。でもあなたが来てくれたおかげで倒れずにすみましたから、本当に感謝してるんですよ?」
「……その恩人を攻撃呪文で吹き飛ばしかけたのは誰だ」
「え、ええと…それはできれば忘れていただけると嬉しいなと思うんですけど……」

 とたんに声の小さくなる娘を見ながら、ゼルガディスは言葉を続けた。

「ついでにあんた、物好きだな。自分で言うのも何だが……普通こんな怪しい奴から食べ物を貰おうとせんぞ」
 何しろこの身体だからな、と心の中だけで呟く。
「だってお腹空いてましたし。それに、口調を聞いたら見た目ほど怪しい人でもなさそうでしたから、言うだけ言ってみようかと」
 平然と答える娘に、ゼルガディスは呆れるか、感心するか悩みつつ言葉を返す。
「それだけ腹が減ってたのなら、そこらに生えてるキノコでも何でも取って食えばよかっただろうが」
 そう言うゼルガディスに、娘は憮然とした声を出した。
「けどこんな妙な森に生えてるキノコ、食べる気します?」
「……まあ、その気持ちは分からんでもない」
 分からなくはないが、図太いのか繊細なのか理解に苦しんだだけだった。

 そうでしょうなどと言いつつ、膝の上の草を払う娘を見ながらゼルガディスは再び口を開く。
 どんな状況であろうと、人間に出会ったのならば聞いておかねばならないことがある。

「とりあえず人心地ついたのなら、あんたがここに入ってからの話を聞かせろ。それと――」
「それと?」
「――まずは名を名乗れ」

 最も基本的なことを告げるゼルガディスに、娘は緑色の瞳をきょとんと見開いたのち、決まり悪そうに、エリュシアですと呟いた。





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